「[開始]>[実行]をクリックします」という訳文、どこに修正点があるかピンと来ますか?
所要時間20秒ほどのアンケートを作成しましたので、よろしければ回答を行ってからこの先にお進みください。
2018年のはてなブログでどういう結果が出るのか、かなり興味深いです。
さて、Webを検索してみると、いくつも例が引っかかるのですが、リンク先のIBM Knowledge Centerの記事にも次のような文が見つかりました。
「cmd と入力し」や「regedit と入力し」などの文章が続くところもヒントになるかと思うのですが、いかがでしょうか?
あまり引っ張らずに種明かしをすると、これは Windows での [Start] > [Run] の翻訳におけるエラーですね。
スタートメニューを押した後の[Run]が、日本語版では[ファイル名を指定して実行]と訳されているため、ドキュメントで[実行]と訳すとUIと対応が取れなくなってしまうわけです。
以前に、次のような記事を書いたとき、「Watch」の訳が「視聴する」ではおかしいからといって、「変更通知を受け取る」にまでカスタマイズすると、他との整合性でいろいろな問題が発生すると述べました。
Windows の日本語 UI も、「Run」の翻訳を「ファイル名を指定して実行」にカスタマイズしているわけですが、これくらいの攻め方で、しかも翻訳者が簡単に確認できるような OS の UI でも、ドキュメントでの訳がずれる可能性があるというのが現実です。
ここで少し視点を変えて、IT翻訳で必要とされる「製品知識」、「専門知識」、「IT知識」について考えると、一つの基準は、ここで[Start]と[Run]を、スタートメニューから[ファイル名を指定して実行]をクリックし、と適切に訳せるかどうかにあるような気もしています。
開発系のプログラムのローカライズを除く、などの但し書きは必要かもしれませんが、案件数の多いボリュームゾーンのお仕事では、このレベルでも「差が付く」というのが偽らざる事実ではないかなと。
こういうミスを、最初の失敗から学んでその後繰り返さないようにできる人、こういう階段を一つ一つクリアしていける人は、後追いで「あの人は製品知識があるから」と言ってもらえるようになる業界ではないか、ということですね。
ただし、最初からフリーランスで、納期に追われまくるという仕事の受け方だと、こういった階段を一つ一つクリアしていくことが難しい場合もあるかもしれません。
次の文章の太字にした箇所、とても頷きます。
はじめに「専門知識」に欠ける場合ですが、これは技術的なバックグラウンドがないままに翻訳会社に就職してチェッカーをやっている人の一部や、学校でも実務でも専門知識を身に付ける機会がないままに翻訳者を志して、翻訳学校で一通りのライティング スキルを身に付けた人によく見受けられます。
納品された日本語は整っているのですが、内容を理解できていない箇所で誤訳します。本当はそういう人は翻訳の発注元であるソフトウェア ベンダーなどのソース クライアントで仕事をするのが一番効率のいい修行になります。なぜなら、仕事の上流工程を担うソース クライアントの立場にあるほうが、業務に必要な専門知識の範囲を絞り込めるからです。
仕事の下流工程を担うフリーランスの翻訳者は、翻訳会社の営業結果に応じて IT 翻訳の中のいろいろな分野を翻訳しなければならないため (今日はデータベースで明日はネットワーク、という感じで...)、カバーしなければならない専門分野の範囲が拡がってしまい、短期間に効果的に知識習得するのがより難しくなります。
IT翻訳入門09:IT翻訳の最短学習法 - smallmedia.jp 言語技術を考える
キャリアの最初にオンサイトの仕事を検討するというのは、結構合理的だと思いますね。
フリーランスの翻訳者の方にお仕事を出すときは、一定レベル以上の納品物を求めると思うのですが、オンサイトの仕事の方が、ある程度の「伸びしろ」込みでの就業が可能なケースも多そうな気がします。
英語力という基礎の上で、製品知識らしきものを身に着けていくまでの「修業中」の身の、言葉は悪いかもしれませんが「時間稼ぎ」として、キャリアの最初の方で上流工程に飛び込むというのは、ありな選択かもしれません。
冒頭のアンケートの結果、楽しみにします。