助動詞の「must」といえば、中学校でも習う基本単語ですが、実務翻訳・IT翻訳の現場では思わぬ誤訳をされてしまうこともしばしばです。
The validation error must be caused by a bug or a hacking attempt.
node.js - Handling Mongoose validation errors – where and how? - Stack Overflow
上の例文に対する典型的な誤訳は「認証エラーは、バグまたはハッキング行為によって生じている必要があります。」
IT翻訳に親しんでいない方からすると「えっ!?」と思われる訳例かもしれませんが、誤訳の背景として、訳語の統一のために「must」の訳に「~する必要があります」という日本語をあてるスタイルガイドが多いことがありそうです。
例えば、こちらは次のページからダウンロードできるMSのスタイルガイドですね。
スタイルガイドをダウンロード - マイクロソフト | ランゲージ ポータル
原文を見ると、「often」が使われていて、特定の文脈においてのみ「~必要があります」とすると但し書きがあるにも関わらず、実務の現場ではしばしば短絡が起こってしまうようです。
冒頭の文に戻ると、これは英文法で習うところの「~に違いない」と訳すタイプの「must」ですよね。
The validation error must be caused by a bug or a hacking attempt.
「~に違いない」という訳語をもろもろの事情で避けるとすると、「認証エラーはバグまたはハッキング行為によって生じたと判断できます。」などと訳すことができると思います。
要は「must」が伝えたかった「確実さ」の感覚を日本語にどう移すかということですからね。
単に「認証エラーはバグまたはハッキング行為によって生じています。」と断言するだけでも、場合によってはOKかもしれません。
「必要があります。」はこの場合NGです。辛い。
The field must not contain line breaks.
NG訳例: フィールドには改行を含めない必要があります。
誤訳というよりは変な日本語ですね。
これも、もしかしたら10年後にはOKになるのかもしれませんが、きつい。
MSのランゲージポータルからですが、「~することはできません」というのが、英文法でいうところの「禁止」の「must not」をIT翻訳で訳するときの一番ポピュラーな訳かなと思います。
クライアントによっては「フィールドには改行を含めないでください」や「フィールドには改行を入力しないでください」などの訳が好まれる場合もあるかもしれませんが、この辺は好み(preference)の領域ですよね。
ただ、同じMSでも、次のような訳が存在するんですけどね。
4文目なんかは、文脈次第ですが、「クラスター上に存在するユーザーを選択することはできません」などへの変更が浮かびます。
まあ、大規模・短納期かつ多くの翻訳者が関わって、翻訳メモリなども最大限活用しながらやっているような中では、ある程度仕方ないとも思いますけどね。