一緒に住むことを決めた時に読み、入籍したときにもう一度読み返した本を紹介します。
すべてのパートナーシップ本にいえることだと思いますが、コミュニケーション全般に関する内容として、パートナーや家族、友人などとの関係だけでなく、仕事の場でも活用できる部分があるかなと思います。
三笠書房
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内容に入る前に2大おすすめポイント
・原著の出版が1992年、25年以上前なのである意味古典! そこがいい。
パートナーシップについて述べた本の内容に、100%同意できる可能性は限りなく低いです。
パートナーシップに抱くイメージは、個人の育った環境に大きく左右されるそうですからね。
そうすると、最近出版された本であればあるほど、自分と同時代人だという意識が働く分、自分と異なる主張にはイライラさせられてしまいます。
その点、この本は、1951年生まれのアメリカ人のおっさん(失礼。)が25年以上前に書いた本だし、しかもあちらはキリスト教圏で家庭に関する考え方も違うし、ということを考えると、あまりイライラせずに読み進めることができます。
自分の癪に触る部分はさっと読み飛ばして、メリットがありそうなところだけを受け入れるという使い方をしやすいのではないでしょうか?
・訳者が大島渚さん
あの映画監督の大島渚さんです。文章も非常に読みやすいです。
大島渚さん自身、人生相談の名回答者として知られていたようですね。パートナー関係の話題にも強かったのではないでしょうか。
『ベスト・パートナーになるために』というタイトルの本を読むのはちょっとハードルが高いという人でも、「いやあ、訳者が大島渚さんでさあ。大島渚監督の映画、観たことある?」なんて話題のすり替えが効く本書なら、本棚に置けるはずです。
さて、内容ですが、おそらく読み進めていくと、どこかで聞いたことあるなあという既視感を常に覚えるのではないかと思います。
パートナーシップに関する話題や、いかに愛される女性になるかといったトピックは、ネットニュースなどの読み物でも人気ですからね。
また、本書自体がパートナーシップ本の大先輩ということもあり、いろんな部分がコピペさらながら今まで拡散してきたという事情もあるのかなと思います。
婚活関係のアドバイスなどでも、本書に似た内容を目にすることがあります。
というわけで、そいういう既視感のありそうなところを紹介しても、あまり生産的ではないかなと思い、一箇所、割と驚きをもって読めるところをピックアップしたいと思います。
夜中のミルクの話です。
登場箇所は、本書の中でも後半部の「第6章 男に自信をつける”女のひと言、会話の仕方”ー”男のやさしさ”を上手に引き出すテクニック」になります。
「上手に引き出すテクニック」という部分が的確かなと思います。
要は、自分が求めていることを明確に伝える、アサーティブになる、ということに近いのかなと思いますが、第6章では次のようなセクションが続きます。
手始めに”待つ”のをやめる
①もっと抵抗感なく男性に「YES」と言わせる方法
ここに気を付ければ、もっと気軽に”ひと肌”脱いでくれる
1 タイミングを選ぶこと
2 命令するような態度・口調で頼まない。頼み事は決して命令ではない。
3 用件は短く。説明が長いほど抵抗感が増す
4 そして分かりやすく。変に回りくどい言い方はさける
こんな間接表現では真意が通じない
男はみんなこの”言い方”にカチンとくる
②より多くのことを要求して手に入れる方法
相手に”選択の自由”を与えた方がNOと言われにくい
こうすれば男の”許容範囲”はグンと広がる
無理して「YES」と言っているうちは、まだ”他人の関係”
③あなたの要求を通すための”究極のテクニック”
感謝されると、男はここまで素直になれる
どうでしょうか? 私の方で太字にした「相手に”選択の自由”を与えた方がNOと言われにくい」という部分に興味を持った方は、これがまさに夜中のミルクの話になります。
少しだけ解説すると、男性に頼みごとをするときに「タイミング」が大切で、タイミング次第で男性の「抵抗感」が大きく違ってくるというのは、本書の大きなテーマと関わっています。
著者の言葉を借りると、男性はすぐ何かに熱中したり、ストレスが許容量を越えた時に「心の穴の中に閉じこもる」ことがあるそうです。なので、こういうタイミングで話しかけるのはよろしくない。
また、子供みたいですが、「今やろうとしてたのに」というタイミングで「ゴミを捨ててきて」と頼むのもよろしくない。
男性は、「ゴミを捨ててきて」の裏に「あなたはどうせ自分からはゴミ捨てなんてしてくれないだろうからもう一度言うわね」のようなダブルミーニングを感じ取って、「信頼されてない」と感じてしまうそうです。
次に、「間接表現を避ける」、「用件は短く。理由は尋ね返されたときだけ(しかも短く)伝える」という部分ですが、これはかなり有効だなと感じます。
自分なりの言葉で言い換えると、要件を、シンプルに、「私がこれをやって欲しい」とか「あなたがこれをやってくれたら私はハッピーだ」という、「私」発のポジティブなかたちで言い切るということだと思います。
「この前も私が担当したから~」みたいな「あなたがこれをやるべき」という理由付けは省いて、「あなた、これ、やる、私、ハッピー」で伝えた方がよいということですね。
これはチームで仕事をするうえでも大切だと思います。
チームの目的が、できるだけみんながハッピーなやり方で成果を出すことだとするなら、成果の部分は明確でも、個々人で何がどうなればハッピーかというのは口に出さなければ伝わらないですからね。
「あなたがやるべき」という形でこっそり「私が嬉しい」をしのばせるより、「これをやってもらえたら私が嬉しい」で細かくお願いごとをしあうことが、チーム力を高める一つのコツだと思います。
正当化できるお願いかどうかが重要ではないんですよね。「私がハッピー」=「チームの一員がハッピー」になるという情報をまず発信して、相手のYES・NOを聞いてみるというのが重要だと思います。
要求の自己検閲には反対!
これらのポイントを押さえた上で、次がいよいよ「相手に”選択の自由”を与えた方がNOと言われにくい」です。
たとえ彼があなたの要求に対して「NO」と答えても、あなたの愛情は変わらないということを彼に認識させることである。あなたから示される、より深い要求に対して「NO」と答えることが可能であると感じた時、彼はその要求に対して、より積極的に「YES」と答えるようになる。男性というものは「NO」と答える自由が与えられれば与えられるほど、快く「YES」と答えたくなるものだということを肝に銘じておこう。
女性にとっては、彼に自分の要求をいかにうまく伝えるかと学んでいくことも大切だ。しかし、相手の「NO」という答えをいかに受け入れていくかを学ぶことも同じように大切である。
ロジックには賛成できないところもありますが、相手がYES/NO両方の答えを返せるお願いをするということには大賛成です。
相手がYESと言わざるをえないお願いって、まず第一に相手もすごくよい気分はしないですよね。そうなる前、YESでもNOでも答えられて、第3の道を考ることもできる状況でもってきてほしかったというのが正直なところでしょう。
また、YESと言われる可能性が高いかどうかは、推測ベースになってしまうので、実際にお願いしてYES/NOの回答をもらった方が精度も高いし、スピード感もありますよね。
さらに、YESと言われる可能性が高いお願いしかできないとすると、お願いの幅自体がすごく狭まりますよね。
「回答としては当然NOもありえる」というかたちで相手のNOを許容できれば、他から見れば「とんでもない」みたいなお願いもできるようになって、それは各人がハッピーになれる可能性を高めるはずです。
もし、あなたが男性に何か頼みごとをした時、彼から拒否されることを快く認め、理解を示してあげられるようになれば、彼はそのことをしっかりと心に刻み込んで、次の機会には喜んで助けてくれるようになるだろう。
だが、その一方で、もし、あなたが遠慮をしすぎて自分の要望をすべて犠牲にし、何も意思表示をしなければ、彼には自分があなたからいかに必要とされているかが永久に伝わらない。「前回は自分の拒否を気持ちよく受け入れてくれたから、今回こそ引き受けよう」などという気持ちが湧いてきようがないのだ。何の意思表示もされずに、どうしてあなたの本心が読み取れるのか?
あなたが愛情と思いやりを込めた気持ちで相手の心の扉をたたき続けるうちに、彼はしだいにその"許容範囲"を広げていき、「YES」と答える確率を高めていくのである。この段階になれば、あなたは彼にもっと新しいことを要求できるようになる。
「あなたが愛情と思いやりを込めた気持ちで相手の心の扉をたたき続けるうちに」、いいフレーズですね。
「パートナーだから当然」、「チームだから当然」、「社内だから当然」という心を取り払って、営業担当のような気持ちで、NOの可能性も受け入れた上で、「扉をたたく」ことはすごく大切だなと思います。
文字数が今の時点で4000文字に達したようで、夜中のミルクの話を詳しく引用するのはやめようと思います。
ただ、これまでの流れでお分かりのように、夜中に相手が寝る直前に「ミルクを買ってきて」と頼むのは、NOと返される可能性が高いお願いです。
くれぐれも、こういう質問を、相手を試すようなかたちで使ってはダメです。
でも、今ミルクがあればハッピー、という気持ちから生まれたお願いとしては、夜中にミルクを買ってきてと扉をたたくことは、積極的に「あり」だと思う次第です。
古典として一定の距離感を保って読めること、大島渚さんが翻訳者なこともお勧めポイントです。