翻訳ラジオ

若手の IT 翻訳者が書いています。

建築のように材料費に人件費をまぶせないから見積もりがシビアな翻訳業界

サイボウズ式の記事を集中して読んでいた時期に、発想にすごく衝撃を受けたのが、「納品をしない受託開発」、「月額定額のシステム開発」を行っているソニックガーデン社長の倉貫義人氏のインタビュー記事でした。

自分は建築業界について知識ゼロなのでその部分の判断はつかないのですが、見積もり額がピュアに人件費のみになりやすいということでの次の指摘にはものすごく説得されました。

僕は見積もりが好きじゃないんですよ。SIerの見積もりってだいたい外れるんです。ビルや家を建てる時って、人件費を材料代にまぶして見積もるんですよ。だから見積もり金額にそんなに大きなブレはない。

でも、ソフトウェアって材料代がないですよね? 人件費というブレる要素しかないわけです。人月だと優秀な人とそうでない人で差が出るのは当たり前だから、人月で見積もってもうまくいくはずないですよね。

幸福なシステム開発は実現できるか?――ソニックカーデン倉貫義人とサイボウズ青野慶久が考えた | サイボウズ式

自分がフリーランスを選ぶ強さがないのは、キャリアが浅いためこのブレや振れ幅がまだまだ大きいのと、そのブレを会社に抱えてもらう以外でうまく処理できるイメージが浮かばないという点があります。 

新規開発では、非常に反省した案件で1.6倍の見積もりブレを出したのですが、コードの修正だと数倍の見積もりブレが出ます。「ちょろっと」で直ることもあれば無理なこともあります。 開けてビックリ玉手箱です。 それを請負でやると相当盛らない限り詰むわけですが、クラウドソーシングでは盛ることはできません。最低限ギリギリのラインを割ったラインが受注ラインですから。 というわけで、まあいい感じに詰んでいます。

クラウドソーシング、二度とやるまいと思った話 - IT業界で気づいたことをこっそり書くブログ

こちらは購読しているブログで目に留まった記事なのですが、翻訳でも「開けてビックリ玉手箱」は結構あります。

ツール関係で問題が発生したり、翻訳メモリだったり、スタイルだったり、周辺的なところでいろいろ発生するんですよね。

こういうとき、正面から受け止めすぎずに「えっ、聞いてないよ?」とか「えっ、知ってた?」とか、「えっ、初耳だよ」とか、気付いた瞬間にごくごく短いメールを送っておくのは大切だと思います。

 

でも、いろいろ言っても、「翻訳は結局のところワード数で請求するしかないでしょ」と思われる方もいるかもしれませんが、先ほどのソニックガーデン社の倉貫さんの記事ではその点でも「なぬー」と思わされる部分がありました。

人月での見積もりはそもそもソフトウェア開発に向いていない。じゃあ見積もりをやめるにはどうすればいいかというと、金額をあらかじめ決めて、その金額に応じて仕事をマネジメントするしかない、という発想なんです。

幸福なシステム開発は実現できるか?――ソニックカーデン倉貫義人とサイボウズ青野慶久が考えた | サイボウズ式

これを次の、「営業らしい営業」をなくして「質の良い通常業務を営業と見なせばよい」という部分とセットでやれれば、翻訳・ローカライゼーション業界も大きく変わると思うんですよね。

ソニックガーデンさんには営業パーソンもいないんですよね。その一方で、最初の1カ月は「お試し期間」として無料にしている。これって僕はまさに営業行為だと思うんです。(by 青野さん)

おっしゃるとおりです。営業なんですよ。そこを看破されたのは青野さんが初めてです。

1カ月間、プレゼン資料を持って営業活動をするのも、プログラミングするのも同じコストがかかりますよね?だったら僕らはプログラマーなんだからプログラミングをしようよ、という考え方です。(by 倉貫さん)

実は営業行為だとピンときたのは、サイボウズのあるパートナーも同じようなことをやっていたからなんです。当社の「kintone」という製品にも30日間のお試し期間があるのですが、そのパートナーは「この30日間、お客様の相談に何でも乗ります」ということを始めて、ものすごくたくさん受注した。「よくそのやり方を思いつきましたね」と言ったら、「どっちにしても営業行為なんだから、だったらわざわざ営業パーソンを雇わず、SEにプログラムを作らせたほうがいい」と言っていたんです。しかも、作ったものを別の会社にも提案できるから一石二鳥だろうと。(by 青野さん)

まったく同じ思考ですよね。うちの場合、月額定額だから、お客様から続けていただけるということは、翌月の営業をしているようなものなんですよ。(by 倉貫さん)

日本のサラリーマンは「35歳定年」でいい――倉貫義人×青野慶久、プログラマーを再定義する | サイボウズ式

乱暴ですが、翻訳会社も全部この発想でいいんじゃないかという気さえします。

あんまり営業って必要ないんじゃないかなあ、とか。

 

倉貫さんの対談記事、他にも、総務系の部門だけ完全に別会社にして、しかも子会社ではなく総務サービスを他企業にも提供する独立の会社にしていたり、発想が大胆かつめちゃくちゃ参考になるので、是非元記事を読んでみてください。